次世代による新たな「水源地の村」づくりのはじまり

川上村は、奈良県吉野郡東部の三重県境に位置し、近畿の屋根といわれる台高山脈と大峰山系、桜の名所として名高い吉野山に囲まれた村です。川上村のかけがえのない財産は村の中央を流れる吉野川です。川上村はこの吉野川の源流にあり、水や緑など豊かな自然に恵まれています。
昭和34年の伊勢湾台風で甚大な被害が発生したことから、吉野川下流域を洪水から守ることを目的に、川上村では昭和40年より大滝ダムの建設が始まりました。このダム建設事業により村内の500戸近くの住宅移転が余儀なくされました。このため多くの村民が村外に流出し、急激に人口が減少し過疎化が進行してしまいました。
村の中心部が水没し多くの住宅移転が求められるダム建設を受け入れるか否かは川上村にとって苦渋の選択でしたが、村に暮らす住民だけでなく下流域の人々とも手を携え「水と森を守り育てていく」ことが村の進むべき道と考えダム建設を受け入れました。
平成8年8月1日川上村では「川上宣言」を発し、「樹と水と人の共生」をテーマに掲げ、ダムと共存するとともに、林業の振興や水源地としての自然環境を守ることを使命とした村づくりに取り組むこととしました。
このような経緯の中、平成25年3月には完成までに50余年の歳月を要した大滝ダムが竣工し、コンクリートのダムと緑のダムを抱える水源地として新たなスタートを切りました。しかし一方で、昭和30年代半ば以降、村内の人口減少は続き著しい少子高齢化の影響もあって、集落機能の維持もたいへんな状況となっていました。このため次世代を担う村役場の若手職員を中心として「次世代住環境ワークショップ」が立ち上げられ、現在の村の実態をふまえた新たな「水源地の村」づくりへの取組が平成25年度に開始されました。
取組のきっかけとなった危機感

新たな「水源地の村」づくりに向け、川上村についてどこが良い(悪い)と思っているか議論を重ね、職員同士の考えを理解した上で、3つのステップを設定し取組を進めました。
資料等で村の現状を整理し、それらを確かめるべく村内を歩いて調べた一つに中学校がありました。だだっ広い教室に生徒が2人と先生1人・・・その光景に衝撃を受けたことがこの取組の原動力となりました。
村内にはどんな事業所があって状況はどうなのか、アンケートだけではなく職員が直接出向いて話を聞くことで、通常では聞き出せない悩みや現状を把握しました。また、川上村の住まいは他と比べてどのような特徴があるのか等についても改めて現地に出向いて調査し、議論を重ね問題意識を共有しました。
現場に足を運ぶことで、村内にはまだまだ「働く場」があり人を募集している事業所があることがわかりました。また村内の「住まい」については、村営住宅や空き家の活用について検討が必要であることもわかりました。
これらをふまえ、川上村の最大課題である「人口減少」を克服するため、「定住促進」「事業所活性化」「村営住宅整備」及び「空き家活用」といった各課の施策を関連づけて横断的に進める
『仕事と住まいのワンセット支援プロジェクト』
を、以下を具体案として進めることとなりました。
1.「働く場」の確保
2.村で起業したい・働きたい「若者」等の募集
3.働く若者等のための「住まい」の確保
「川上ing(かわかみんぐ)作戦」始動


平成26年度より、全ての村民が幸福な生活を営めることを前提として、これらの主に若者等に重点を置いた移住・定住支援の取り組みを「川上ing作戦」と位置づけ、2つのプロジェクトが開始されました。
『仕事と住まいのワンセット支援プロジェクト』
「移住」促進を目的とし、全7課から集まった若手職員で「仕事チーム」と「いえチーム」が編成されました。
『住まいるライフプロジェクト』
「定住」促進を目的として新たに立ち上げられ、「子育てチーム」と「福祉チーム」が編成されました。
これら全体を取りまとめる事務局を中心として、現場での活動と情報共有および戦略会議としてのワーキングが繰り返されました。
1.「働く場」の確保それまで実施していた田舎暮らし体験ツアーで移住を希望した人が就職先がなく移住を断念したり、実際に移住した人が村外の事業所に就職していたことから、人材を求めている事業所に協力事業者となっていただき、人材確保の支援を行って村内の生産人口増加を目指しました。
2.村で起業したい・働きたい「若者」等の募集川上村に興味のある人、移住先を探している人、田舎暮らしを考えている人に川上村を知ってもらい体験してもらうため、事業所見学による働く場の紹介と村営住宅や空き家の見学、暮らしをイメージしてもらうための保育所や学校の見学と集落民との会食等を一泊二日で体験する「職×住を知る川上ingツアー」を継続的に実施しています。
3.働く若者等のための「住まい」の確保平成12年に古家を購入改修し体験ツアー等に活用してきた施設が築50年以上経過し老朽化していたことから、若者単身移住者等の受け入れ施設として「川上のいえ」(村営住宅)を整備しました。移住者が住み慣れない村で安心して生活できるよう、同世代の若者が共同生活するシェアハウスとして企画し、実際の生活をイメージしながら職員自らプランニングしました。「川上のいえ」での生活を通じて川上村での生活や仕事に慣れ親しんでもらい、定住への足掛かりとすることを目指しました。川上村の住まいを見つめなおし川上産材の良さを生かした「川上村らしいもの」とすることで、今後の村営住宅建設事業のモデルハウスとしての活用も目指しています。
4.村民の心を満たすしくみの創出「絆づくり」平成26年度より開始された『住まいるライフプロジェクト』では、村民が心を満たし安心して生活できるために必要な「人と人との繋がりによってお互いに助け合う仕組み」が機能している川上村において、子育て世代移住者を定住者に繋げていくため積極的に誘導支援を行うことをめざしました。
「川上ing(かわかみんぐ)作戦」のいま
平成26年度より開始された村役場職員による「職×住を知る川上ingツアー」は現在も継続されていますが、電話等での問い合わせも多くHP上で公式に開催されるツアー以外に個別でのミニツアー的な対応がされています。その結果、開始から
6年間で30世帯71人(大人48人・子ども27人)
の方が川上村に移住・定住されました。これは、総人口約1,300人の村にとって5.5%近い人口が増加したことになります。100万人都市であれば5.5万人増加したことになります。村の総人口の減少率についても、2020年では2015年に比べ11.7%と大きく下げ止まってきています。
(2010年→2015年の減少率20.1%)
(2005年→2010年の減少率19.7%)
「7年前に取り組んできたことが少し成果として出てきたのかなと思うが、これから先の5年間が大切なので安心せずしっかり取り組んでいきたい」と川上ing事務局から連絡をいただきました。「川上ing作戦第二弾」が楽しみです。
「川上ing(かわかみんぐ)作戦」の発展的展開
川上村ではこの川上ing作戦をきっかけに「川上村まち・ひと・しごと総合戦略」で「小さな拠点づくり」を位置づけ、その事業化検討のための「小さな拠点づくり協議会」を母体として、平成28年7月「一般社団法人かわかみらいふ」を設立しました。
かわかみらいふでは移動スーパー事業や宅配事業、コミュニティ・カフェ事業等を行うことで村民の生活を支えながら、保健師が同行することで村民の体調管理や見守り等、健康づくりの支援も行っています。
村内に1箇所しかないガソリンスタンドが廃業になった折には、県内初の公設民営ガソリンスタンドとして事業を引き継ぎ、今日も村民の生活を支えています。
「川上ing(かわかみんぐ)作戦」の活動記録
■奈良県川上村関係HPの紹介(外部サイトです)
- 移住・定住情報 ─田舎暮らし・空き家情報など─
- 「働く場」の紹介
- 人知シェアハウス(川上のいえ)
- 川上ing作戦・川上ingツアー
- 住まいの情報(住まいるネット・村営住宅)
- 川上村定住情報マガジン
- 一般社団法人かわかみらいふ
■関連資料等
- 川上ing作戦実施のための中間報告資料(平成26(2014)年8月)─1
- 川上ing作戦実施のための中間報告資料(平成26(2014)年8月)─2
- 川上ing作戦実施のための中間報告資料(平成26(2014)年8月)─3
- 第1回かわかみんぐツアー配布資料(川上村作成)
- 広報かわかみ 川上ing作戦の報告(平成27(2015)年10月)
- 広報かわかみ 人知シェアハウス入居者募集案内(平成28年(2016)年2月)
- 「人知シェアハウス」入居者募集チラシ
■掲載紙
- 全国市町村国際文化研修所 JIAMメールマガジン 第149号(2015.11.25発行)インタビュー記事(上)(外部サイトです)
- 全国市町村国際文化研修所 JIAMメールマガジン 第150号(2015.12.24発行)インタビュー記事(下)(外部サイトです)
- 奈良新聞(2016.06.16)逆転の発想で集落継続 一般社団法人「かわかみらいふ」設立
- 奈良新聞(2017.04.03)川上に公営ガソリンスタンド 夫婦の廃業店引き継ぐ
- 朝日新聞奈良版(2017.04.04)ガソリンスタンド川上村営に衣替え
- 読売新聞(2017.04.04)川上村営GS開店
- ナント経済月報(2017.05)奈良県初の公営ガソリンスタンド「かわかみサービスステーション」誕生
- 奈良新聞(2017.12.27)村営ガソリンスタンドを委託管理をするかわかみらいふが自動給油機による灯油の試験販売開始
- 奈良新聞(2019.04.11)若者の生活を快適に 単身・子育て世帯向け村営初の集合住宅完成