川崎中小工場 proj ~ 川崎市内陸部工業集積地における操業環境保全を目指したまちづくりプロジェクト ~

「準工業地域」と中小工場の操業

「準工業地域」とは、都市計画において計画的な市街地を形成するため、用途に応じて現在13地域に分けられるもののひとつです。

用途地域の導入は大正8(1919)年の旧都市計画法にさかのぼり、当時は住居・商業・工業・用途無指定の4地域でした。昭和43(1968)年に制定された新都市計画法では、その後の昭和45(1970)年の改正により4地域から8地域へと増えました。準工業地域はこの時に設けられ、環境の悪化をもたらす恐れのない工業の利便を目的とし、商業や工業との混在も許容されました。そもそも一般的な市街地では住居と工業、商業等が多様に混在するため、準工業地域は用途混在型の地域を対象とした位置づけでした。

近年、わが国の産業構造の転換等によって準工業地域に集積していた中小工場が撤退・転出し、その跡地へ戸建住宅等が密集して建設されるケースが続いています。この現象は集積効果を享受しながら操業する中小工場にとって操業環境を悪化させるだけでなく、他の住居系地域よりも緩い規制によって住宅が建設されるため住環境としても好ましいとは言えず、このままでは相乗的に地域の衰退が進んでいくことに繋がりかねません。

 

住工共生のまちづくりに至った経緯

川崎市は、長年にわたり日本の経済を支えてきた世界有数の産業都市で、現在も優れた技術を持つ企業が集積しています。

市域の約2割の面積を占める川崎臨海部は、グローバル化に伴い産業構造が大きく転換する中で、ライフサイエンス分野など新たな成長産業による国際戦略拠点を形成する等、30年後を見据えた取組が行われています。

一方、多摩川を挟んで東京に隣接する川崎市内陸部の高津区や中原区には、高い技術・技能を有した中小企業等が多く集積し、現在も日本の産業を支える重要な基盤の一つとして機能しています。しかし、都心に近接している地理的要因や産業構造の転換に伴う移転や廃業により工場跡地が増加していること等から、住宅事業者によるミニ戸建て住宅地としての開発が進行し、工場の操業環境保全が大きな課題となってきました。

川崎市ではこれらの経緯を踏まえて、平成22(2010)年度より経済労働局を中心として中小企業の操業環境保全のための取組を始めました。

 

住工混在地区の現況

 

操業環境保全のための具体的な方策

川崎市では、中小工場事業者へのアンケートやヒアリングの結果を受け、「中小製造業の維持・発展」と「住と共存する操業環境の確保」に向け産業振興とまちづくりの両面から支援を行うことを目的に、平成23(2011)年度に「川崎市内陸部操業環境保全策に関する研究会」を立ち上げました。

研究会では以下の3項目を掲げ、中小工場の操業環境を保全していくための具体的な行政施策について、都市計画や産業政策の有識者を交えて議論が重ねられました。

1.工場アパート等の施設整備の推進

工場集積の維持発展や地域産業の活性化をめざし、中小工場等が集積する地域では「工場アパート」の整備を進めている自治体があります。「工場アパート」とは複数の工場が同じ建物の中で操業することで、工場間の連携だけでなく外部に対する騒音や臭い等の対策も容易になります。しかし、整備や管理運営等の主体をどうするかが大きな課題となります。

2.製造業の維持発展に向けたソフト支援

準工業地域における用途混在等の課題は、都市計画によって工場集積を守り住宅建設を抑制するための条例を制定する方法が考えられます。工場集積のため、新たな工場を誘致する補助制度の確立等も想定できますが、いずれの場合も時間がかかることが課題です。

3.住工共生のまちづくり

まちづくりにおいて重要な事は、異なる立場にある人々がお互い助け合いながら共生していく社会をつくることにあると考えます。しかし現実的には工業者同士の連携自体も脆弱となっており、まずは工業者同士の連携強化を図る必要性がありました。工業者同士が連携した上で地域住民とのコミュニケーションを図ることで、お互いを理解し合う関係を継続的に保つことが必要です。

 

住宅と工場の共存をめざしたまちづくり活動始動

上記研究会での成果を基に、平成24(2012)年度には対象地域において工業者で構成された連絡会が設置され、地域課題の把握や都市計画等の法制度、先進的な住工共生の取組事例等の勉強会が開催されました。

勉強会では、操業環境を守るための制度の活用や、工場を移転集約させて棲み分ける工場アパート等のハード整備の可能性を探る一方で、まずは地域の工業者同士がお互いを理解しあうこと、さらには共に暮らす地域住民の方々に理解をしていただくことの重要性が議論されました。また地域で暮らす住民や工業者と違い、地域と直接かかわりを持たない「住宅開発事業者」には、販売時に準工業地域である旨の説明をお願いする等、別途協力依頼が必要であるとの議論もなされました。

これらの議論を通して工業者社同士が相互理解を深め、住民とのコミュニケーションづくりへつながる工業者によるまちづくりの機運が高まり、専修大学経済学部遠山研究室遠山教授の協力のもと「高津ものまちづくり会」が結成され、遠山ゼミの学生さんや地域貢献活動を勧めている川崎フロンターレさんの協力も得てまちづくり活動が開始されました。

 

■勉強会の様子

 

「ものまちプラザ」の開催

川崎市生活文化会館てくのかわさきにて例年開催されている「てくのまつり」の一企画として、「高津ものまちづくり会」が中心となり「ものまちプラザ」が開催されました。

日本の「ものづくり」を支える川崎の中小製造業の持つ≪秘めた力≫を子どもから大人の方まで楽しく理解していただくため、専修大学遠山ゼミの学生さんの協力を得て、地域の成り立ち等をワークショップや紙芝居で紹介しました。また、廃材を利用してロボットやネームプレートをつくる「ものづくり体験」を通して「ものづくり」の楽しさを知っていただき、中小製造業への理解を求める活動を実施しました。

参加してくださった方々のものづくりに真剣に取り組む姿に、ものづくりとその楽しさをアピールすることの大切さを工業者の方々も再認識しました。また学生の方々との活動もとても新鮮な経験で、一生懸命に活動して下さる姿に感謝されていました。

第1回ものまちプラザ(H25.02.17開催)

第2回ものまちプラザ(H26.02.16開催)

 

オープンファクトリーの開催

川崎北工業会および下野毛工業協同組合で開催された勉強会において他都市の事例等を学ぶ中で、地区内に住まわれている方々に工業者の活動を見て体験して知っていただくためにオープンファクトリーを開催することとなりました。

各地区に住まわれている方に、特にお子さんをきっかけとしてご家族の方に来場していただくことを念頭に、学校や自治会等にチラシを配布し周知を図りました。工業者の方も自ら自社の隣近所の方々に呼び掛けを行い、多くの方々に来場いただきました。

開催当日には「高津ものまちづくり会」の専修大学遠山ゼミの学生さんや川崎フロンターレさんに、来場者へのヒアリングアンケートを実施していただく等、オープンファクトリーの運営に積極的に協力いただきました。

また開催後には参加企業を訪問し、オープンファクトリー時の様子や住民の方々からの意見等をヒアリングしてまとめ、今後の住工共生のまちづくりへつなげるため勉強会で意見交換を行いました。

 

■オープンファクトリー参加企業

第1回 川崎北工業会オープンファクトリー(H25.11.09)

第1回 下野毛工業協同組合オープンファクトリー(H26.02.16)

第2回 川崎北工業会オープンファクトリー(H26.10.25)

第2回 下野毛工業協同組合オープンファクトリー(H27.02.08)